⑤亡がら(搬送・収容)


2011年3月11日発生した広域災害「東日本大震災」では「津波」による犠牲者。1995年1月17日の「阪神淡路大震災」では、大半が圧迫死です。

 

建物の下敷き。家具・内装品の下敷き。高架橋の落下で押しつぶされたクルマ。マンションでは倒壊時に室外に放り出され、更に崩れたコンクリートの下敷きとなったケースなど、様々な状態を目にします。

 

そのような状況下で、「亡がら」を空きスペースまで搬送しなければならない場面にも遭遇します。その周辺にお寺があれば、住職に依頼してみます。

 

カラダに対する注意は前ページと同様ですが、大きく違うのは、発災当日から「無造作に路上に伏せた、亡がらを目にする」事です。

当事者となり、行く先々で目にしようものなら、精神的にも大きなダメージを受けます。「こころのケア」は、この瞬間から発生し、後には生活再建に目処が立たない等の理由で、自ら命を絶つ方も居られます。

そして発災直後の現地では、遺体の収容先もありません。

 

では発災日から、どの様に「安置させるか?」を考えてみましょう。

 

カラダを発見したら、付近にいる方々と協力し、周辺の病院や医院、公共施設等からカーテンとシーツ(毛布・布団)をお借りします。自身がケガを負っているなら、その場で応急を施して下さい。

 

病院は専門医で無くても構いません。何科であろうが、消毒剤は持っていますので、手当てを優先に行動します。

そして、医師か看護士に出向いてもらいます。日時によっては休診の場合もありますが、「専門科は問わず」依頼します。

その際、油性マジックペンと医療用手袋、マスクもお借りします。

 

準備したシーツで亡がらを被い、カーテンは外部から遮断する為に使います。シーツ(毛布・布団)へは複数名で移動する事になりますが、血液などには触れない様に心掛けて下さい。

 

負傷者も同様で、被災時の安全衛生面を確立する必要があります。

 

遺体は極力、陽の当たらない場所に並べ、カラダを被ったシーツには、発見場所、日時、診断内容、医師の名前(または発見者)、医師の所在地等を記しておきます。

そうする事で後の処理(検死)にも使え、その場を離れる事が出来ます。

 

外部からシャットアウトするカーテンには、『遺体安置』を表記します。

寺院などの門には、ハッキリと「遺体安置」を貼り出すと良いでしょう。

東日本大震災時の遺体安置状態

 

発災当日から被災者行動として行う事となる。(写真;ニューヨークタイムスより)

 

発災から24時間経てば、管外からの応援隊も集まって来ます。

 

緊急医療チームでは、傷病程度の識別カード(トリアージタグ)を取り付けて行きます。

 

このカードは、専門職にしか扱えない重要性が秘められていますので、絶対に触れる事は出来ません。(後半にてトリアージタグを解説)

これらを踏まえ、発災当初からの問題点を挙げてみましょう。

①シーツやカーテンを調達する際、それが窃盗や窃用にならないか?(※1)

※戸締まりのされた場所に入れば、不法侵入となります。

 破損した建物の内、解放部から手を延ばせば届く範囲で調達出来れば、危険な場所に入る事もありませんが、できるだけ残存している方にお願いするか、ご自宅の物を使うと良いでしょう。

 

②倒壊物がマンションやオフィスビルなら、間違い無く、多くの要救助者が居る!救出には危険箇所まで行かなければならない。しかし、周辺に誰も居らず、人手が無い時に遺体が何体も見つかった時は?

※応援が必要!遺体が何体もあるなら、なおの事、公へ応援を求めます。

 周辺に交番や消防分署があれば駆け込みます。無ければ連絡手段を考え、倒壊を免れた家屋や、公設の建物へ向います。特に公設土木事務所には緊急時に使える電話が設置されています。電話回線がダメなら、タクシー無線などにも目を向けます。何も無いなら目印標記を立てておきます。

 

③発災直後では、感染を防ぐグッズは手元に無い。

※近辺に病院や医院がなければ、ドラッグストア、コンビニでもある程度揃えられます。また、周辺でお店があれば、レジ袋、食品ラップなどでも応用出来ます。

 

④発見時、既に息絶えていたら救出するのか?しないのか?戸惑う。

※手のつけられない程の損傷があったり、救出道具が必要な場合は、その場に『要救助者あり』(遺体であっても要救助者と明記)を表示します。付近で油性マジックの赤と黒、用紙になるもの、ガムテープを手に入れ、「要救助者(遺)・発見日時・発見者名」を記載して貼り出しておけば、海外からの検索者にも伝わります。

★略号例:「 救 」=要救助者。

★「 体」=遺体。用紙には+方位矢印を

★サイン:「/」進入中。

「×」=検索終了・検索済

★日時記載例:2011,03,11 23:34 = 2011年3月11日 23時34分

発災のタイミングにより越年する場合を考慮し、西暦から記載します。

また、海外の活動者にも読み取って頂けます。(日本式ではありますが)

時間も24時制を用います。

 

⑤救出後の応急対応が出来ない。

※せっかく救い出したのに、その後死亡した!となるケースもあります。

 当然その場の方が対応する事となるのですが、手元に応急セット等もありません。ここからが、予備知識が必要となってくるのです。

 

 止血なら自身の着衣やベルトで。骨折固定には倒壊物の板や週刊誌、傘をベルトで固定。

 周囲を見渡し、その場に何があって、何が使えるか?を見極める為にも、サバイバル応急救護法を知っておく必要が出てきます。

 

生活品を使った応急救護テクニックなどは本屋さんで手に入りますし、サバイバル系の雑誌にも掲載される事もあり、キャンプ用品店(スポーツ用品店)でも配付する場合があります。

 

実務を学ぶなら、お住いの消防本部で普通救命技能講習が、また、日本赤十字社では上級救命技能講習まで行っています。

目を通すだけでも違いが出ますし、なにより、自分で自分を蘇生出来ない事に気付くキッカケともなります。

 

着眼点は、特別な道具がいらない事。

専門道具になると、ことさら専門意識が必要で、知識のある者しか扱えません。特殊な装備はその人にすべてを任せてしまう事となり、いざ本番となった際は、一日も持たないでしょう。

 

それと、専門店でしか手に入らないものは万人策とは言えないのです。

身近にあるもので、手軽に扱える物でないと、普段から触る事も出来ませんし、費用と保管場所も必要となります。

 

防災グッズのコレクターにはけっしてなら無い様に心掛けて下さい。


※1の実例

①シーツやカーテンを調達する際、それが窃盗や窃用にならないか?

 

被災地での“火事場泥棒”住民は仕方がないと目をつぶった

週刊ポスト2011年4月1日号

大震災に見舞われた被災地の現場に本誌記者が取材に行ったのは、大津波が直撃し、人口(約1万8000人)の約半数が行方不明となった宮城県・南三陸町。震災発生から2日後に水が引き始めた街の目抜き通りには、波に呑まれた数え切れないほどの乗用車が積み上がっていた。

 

同町の中心部・志津川駅近くに住んでいた70代の男性が、地震発生時の様子を語る。「地震の時は母ちゃんと2人で懸命に逃げたよ。最初は身の回りの物をかき集めようとしたけど、消防車が“逃げろ、逃げろ”と叫ぶから諦めた。隣の商店の親父さんは、盗難に備えて店のシャッターを閉めてるうちに波が襲ってきたんだ。慌てて4階まで駆け上がったけど、それでも胸まで水に浸かり、翌日までつま先立ちのまま冷たい水の中で耐えていたといっとった。生きてたのが奇跡だよ」

 

水が引いたので自宅の様子を見に来たというが、周囲は一面、瓦礫の山だ。

「家がどこにあったのかもわからんなァ……」

そういって寂しそうに笑った。

 

目の前では、30歳くらいのスウェット姿の男女が、瓦礫に埋もれたタンスを開けて中を物色していた。自宅の荷物を回収しようとしているのかと思って見ていると、今度は隣の瓦礫でも同じことを始める。

やがて10数メートル先にあった自動販売機に近寄ると、転がっていた鉄の棒で搬入扉をこじ開け、10数本の缶ジュースを取り出して持ち去った。付近には不明者の捜索にあたる消防団員もいたが、人目を気にする様子は全くない。

 

前出の年配男性は小声で本誌記者にいう。「こういうのは、あまりアンタたちには見せたくないんだけど……。でも、避難所には水も食事も毛布もない。さすがに咎めるわけにもいかんだろうさ」

 

この悲惨な現場を見れば、彼らを単純に「火事場泥棒」と呼ぶのは酷だろう。同じ出来事は阪神大震災でも起きていた。

 

町民の避難所となっている志津川高校では、約300人の被災者が数少ない配給品を「どうぞお先に」と譲り合っていたことを忘れずに付け加えておきたい。

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東日本大震災時、津波に流され、流れ着いた民家の2階では乾いた衣服と毛布やふとんを借用し、一晩を過ごしたという方も多く居ました。

 

当然、着替えを借りた方も居た事でしょう。

 

他人の衣類を着て生き延びる事となるのですが、そのお宅の方が後に見かけたら?

「その服私も持ってるのよ」ってなるかもしれませんね。

 

しかし、そこには「人道的支援」いえ、「人道的感情」で迎え入れる事が必要なのかもしれません。

 

もしもアナタが流され、避難された民家に濡れ身でやっとの思いで辿り着いたら?

 

私はきっとそのお宅の衣服に袖を通すでしょうね。

 

この辺りは「見せない」のが報道のフレームでもあります。平常時に心しておきましょうね!


★トリアージタグの予備知識

色分け法

 

1、黒 (Black Tag) カテゴリー0(死亡群)

死亡、もしくは生命にかかわる重篤な状態であっても救命に現況以上の救命資機材・人員を必要とするため、該当する時点での救命が不可能なもの。

 

2、赤 (Red Tag) カテゴリーI(最優先治療群)

生命に関わる重篤な状態で一刻も早い処置が必要で救命の可能性があるもの。

 

3、黄 (Yellow Tag) カテゴリーII(待機的治療群)

今すぐに生命に関わる重篤な状態ではないが、早期に処置が必要なもの。

 

4、緑 (Green Tag) カテゴリーIII(保留群)

 

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

搬送や救命処置の優先順位はI → II → IIIとなり、0は搬送・救命処置が行われないことがある。特に0に当たる黒タッグはその被災者にとって唯一の診療録となり、後に遺族や警察・保険会社などが参照するものであるから、一目で死亡と分かる状態でも被災状況・受傷状況などを記載しておくべきである。

 

START法(後半別図参照)

救助者に対し傷病者の数が特に多い場合に対し、判定基準を出来るだけ客観的かつ簡素にした物がSTART法 (Simple triage and rapid treatment) である。これは、救急救命室で用いられる外傷初期診療ガイドライン日本版において、Primary Surveyで用いられるABCDEアプローチに基づいたものとなっており、具体的には以下のようになる。

 

歩けるか?

歩ける→緑→状態の悪化がないか絶えず観察

歩けない→下へ

 

A:呼吸をしているか?

気道確保をしても、呼吸がない→黒

気道確保がなければ呼吸できない→赤

気道確保がなくとも呼吸できる→下へ

 

B:呼吸数はどうか?

頻呼吸(30回/分以上)→赤

徐呼吸である→下へ

 

なお、災害医療においては、所要時間短縮のため、6秒間で呼吸数を計る。この場合、頻呼吸と徐呼吸の境界は3回/6秒となる。

 

C:循環状態はどうか?

多くの場合、CRT(Capillary refilling time: 毛細血管再充満時間)が使用される。

CRTが2秒以上である→赤

CRTが2秒未満である→下へ

 

D:意識レベルはどうか?

簡単な指示(例:「手を握ってください」「誕生日を言ってください」など)に従えるかどうかによって判定する。

応えない→赤

応える→黄

 

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

小規模の災害なら赤になる例でもSTART法では黒になってしまう事が多くなるが、これは(現場に混乱を来してしまうほどの)大規模災害のために考え出されたものである。また、この方式は腹膜刺激症状やクラッシュ症候群などの病態を無視しており、追って詳細な状態観察とトリアージが継続されることを前提としている。

別図)START法による診断フローチャート

★大衆が行うトリアージ

傷病者・負傷者の状態は刻一刻と変化していきます。

当初の行為はトリアージの言葉通り、「選別・選定」を優先することで、後に医療従事者への初動を速める為に行います。

 

ただ、我々はあくまでも「素人」です!

ここで心配されること

(1)症状程度の誤差、(2)責任といった問題を危惧される方です。

 

そこで

行為は「責任外行為」=「人道的行為」として理解頂き、症状観察を行いながら、次に段階的措置として「専門家」にも診てもらう事にします。

 

では

どうやってトリアージ表示を行うか?を考えていきましょう。

 

我々素人には「トリアージタグ」なんて常日頃から備えてはいません。

 

そこで

市販品に着眼し、邪魔にならずいつでも使える様にしておきます。

 

その前に

トリアージ(選定)のおさらいを!

では

実践に向けて準備していきましょう!!

★これが簡易トリアージの手法だ!

準備するもの(ツール)は2種!

1、ビニールテープ(細型・太型)のクロ色・赤色・黄色・緑色。

2、油性マジック(細型・太型)のクロ色・赤色・黄色・緑色。

  ビニールテープがない場合は、ペーパーに色を塗り、取り付けることができます。

  また、これに伴い「ペーパー」と「ホッチキス」や「セロハンテープ」なども必要になります。

 

では人体(対象者)への取付場所は?

人体損傷の条件で違いってきます!

条件は「動けない人」=「横になってる状態」の方に行うとしましょう。

 

そこで、

先ずは上半身と下半身に別けて考えておきましょう。

 

1、下体部(下半身)が正常ならば、足の五指(親指を優先に)の関節部分に!

 

2、足がない場合、五指欠損時は「手首」へ(欠落部付近の関節部へ)

 

関節を用いるのは、抜け落ちる事を防ぐ為ですね。

 

また、安置(遺体)状態の場合は、「上半身から顔にかけて」は人目につかない様に覆う事となる為、あえて足を出しています。が、明らかに「死亡」となる場合はトリアージを行う必要はありません。

それから、初段階時の日時を記しておきましょう。医療従事者はいつ訪れるかはわかりませんから…

2011,3,11発生した「東日本大震災」時の安置所(報道写真より)

収容場所の区分標示は?

 

遠めにも理解できる様に大きめに標示が必要なのが、収容場所のエリア(区分)標記です。

 

運び入れる側、訪れる側へ「一目瞭然」となる様に標します。

 

テクニック

1、トリアージに使う「ビニールテープ」をここでも使う!!

 

2、ペーパーに油性マジックで色を塗る

 

どのようなマークを書くの??

場所には「遺体安置」の標記も必要となります。

エリアをしっかりと読み取ってもらう様にするには…

☆ビニールテープを用いて

☆A3用紙を塗りつぶす

応用編

ビニールテープは骨折等の固定、止血にも用いる事が出来ますので、多くを確保しておくと良いですね!